1.はじめに
障害者雇用に取り組もうとする中小企業にとって、最初の一歩を踏み出すのは簡単ではありません。
筆者のもとにも、よく様々な不安や悩みが寄せられます。
そんな企業の皆様をサポートする制度の1つとして、「特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)」があります。
この助成金は、障害者雇用を推進する企業向けの助成金の中でも、以下の特徴から特に中小企業から選ばれています
◆支給額が比較的大きい(最大240万円)
◆申請手続きが他の助成金と比べてシンプル
◆法定雇用率が未達成でも申請可能
◆採用後の申請でもOK
本記事では、「特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)」について、申請要件から実際の手続き方法まで、
中小企業の人事担当者の皆様にとって必要な情報を徹底解説します。
この記事を読むことで、助成金の仕組みを理解し、スムーズな申請手続きができるようになることを目指したいと考えています。
2.特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)とは
制度の基本
特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)は、就職が困難な方を継続して雇用する事業主に対して助成する制度です。
障害者に限定した助成金ではありませんが、障害者雇用に関する助成金の中でもっとも利用頻度の高い制度となっています。
中小企業が活用しやすい3つの特徴
①手続きがシンプル
◆社会保険労務士への委託なしでも申請可能
◆必要書類が比較的少ない
◆オンライン申請にも対応
②採用後申請が可能
◆求人票に助成金の利用予定を記載する必要なし
◆採用決定後に申請を検討できる
◆入社後の申請も受け付け
③支給額が手厚い
◆中小企業向けの支給額は大企業の2倍以上
◆最大3年間の継続支給
◆短時間労働者でも支給対象
他の障害者雇用関連助成金との違い
特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)の特徴を、他の主な助成金と比較すると以下のようになります。
◆トライアル雇用助成金との違い
・より長期の雇用を支援
・支給額が大きい
・併用も可能(ただし一定の条件あり)
◆障害者雇用安定助成金との違い
・採用時の助成が中心
・職場定着のための制度整備は対象外
・申請要件がシンプル
対象となる障害者
本助成金における障害者の対象範囲は以下の通りです:
◆身体障害者
◆知的障害者
◆精神障害者
特に、重度障害者、45歳以上の障害者、精神障害者を雇い入れる場合は、より手厚い助成を受けることができます。
このように、中小企業の実情に合わせた使いやすい制度設計となっているため、障害者雇用の第一歩として活用しやすい助成金と言えます。
3.特定求職者雇用開発助成金の支給額と期間
中小企業向けの支給額
中小企業が障害者を雇用する際の支給額は、雇用形態や対象者の状況によって異なります。以下に主なケースをご紹介します。
通常勤務(週30時間以上)の場合:
身体障害者・知的障害者を雇用する場合:
・支給総額:120万円
・支給期間:2年間
・支給額:30万円×4期(6か月ごと)
重度障害者、45歳以上の障害者、精神障害者を雇用する場合:
・支給総額:240万円
・支給期間:3年間
・支給額:40万円×6期(6か月ごと)
短時間労働者の場合
週20時間以上30時間未満の短時間労働者として障害者を雇用する場合は、以下の支給額となります。
障害者全般(障害種別、年齢等に関係なく):
・支給総額:80万円
・支給期間:2年間
・支給額:20万円×4期(6か月ごと)
支給額の注意点
助成金の支給に関して、以下の点に特に注意が必要です。
①支給対象期間中の離職
◆支給対象期間の途中で対象労働者が離職した場合、原則としてその期の助成金は支給されません。
特に、第1期の支給対象期間の初日から1か月以内に離職した場合は、以降の助成金も受給できなくなります。
②労働時間と支給額の関係
◆実際の労働時間が所定労働時間を大きく下回る場合、支給額が減額される可能性があります。
③トライアル雇用からの切り替え
◆トライアル雇用から継続して雇用する場合、第2期支給対象期分からの受給開始となります。
4.特定求職者雇用開発助成金の申請の要件
対象となる事業主の要件
特定求職者雇用開発助成金を受給するためには、以下の基本要件を満たす必要があります。
1. 雇用保険関連の要件
◆雇用保険の適用事業主であること
◆雇用保険料の滞納がないこと
◆対象者を雇用保険の一般被保険者として雇い入れること
2. 継続雇用に関する要件
採用した障害者を安定的に雇用することが求められます
◆65歳以上まで継続して雇用することが確実であること
◆2年以上(重度障害者等は3年以上)の雇用が見込めること
3. 職場環境に関する要件
雇入れ日の前後6か月間に、以下の事実がないことが求められます:
◆事業主都合による解雇を行っていないこと
◆特定受給資格者となる離職理由での離職者が一定規模以上いないこと
対象外となるケース
以下のような場合は、助成金の対象外となりますのでご注意ください。
1. 過去の関係性による除外
対象労働者との間に以下の関係があった場合は対象外です:
◆過去3年間に雇用関係、出向、派遣、請負等の関係があった
◆3か月を超える実習を実施していた
◆職場適応訓練として受け入れていた
2. 親族関係等による除外
◆事業主の3親等以内の親族
◆資本的・経済的・組織的関連性がある事業主間での雇入れ
5.特定求職者雇用開発助成金の申請から受給までの流れ
基本的な手続きの流れ
採用から助成金受給までは、以下の手順で進めていきます。
1. 採用前の手続き
ハローワーク等の紹介機関を通じた採用が必須条件です。以下のいずれかの機関からの紹介を受ける必要があります:
◆ハローワーク
◆地方運輸局
◆特定地方公共団体
◆有料・無料職業紹介事業者
2. 採用時の手続き
採用が決まったら、以下の手続きを行います:
◆雇用契約書の作成
◆雇用保険被保険者資格取得届の提出
◆障害者手帳等の確認と写しの保管
3. 支給申請の手続き
雇入れから6か月経過後、第1期支給申請を行います。以下の書類が必要です:
◆支給要件確認申立書
◆支払方法・受取人住所届特定求職者雇用開発助成金
◆対象労働者の雇用状況等申立書
◆賃金台帳等の写し
◆出勤簿等の写し
申請時の注意点
①申請期限の管理支給申請は、各支給対象期の末日の翌日から2か月以内に行う必要があります。
⇒期限を過ぎると、当該期の助成金は受給できなくなりますので、社内でのスケジュール管理が重要です。
②書類の保管助成金に関する書類は、支給決定日から5年間保管する必要があります。
⇒後日、実地調査が行われる可能性もありますので、適切に整理して保管しておきましょう。
※なお、不支給が決定された場合でも特に通知はありませんので、申請から一定期間経過後も連絡がない場合は、管轄の労働局への確認をお勧めします。
6.申請時の注意点
6-1. 申請期限を確実に押さえましょう
支給申請には期限があり、これを過ぎると助成金を受給できなくなります。以下のポイントを必ず押さえておきましょう。
◆申請期限:各支給対象期の末日の翌日から2か月以内
(※例えば4月1日に雇入れを行った場合の第1期申請期限:10月16日から12月15日まで)
◆第2期以降も同様に、各支給対象期終了後2か月以内の申請が必要
※支給対象期の考え方
◆賃金締切日がない場合:雇入れ日が起算日
◆賃金締切日がある場合:雇入れ日の直後の賃金締切日の翌日が起算日
(※ただし、賃金締切日に雇入れた場合は翌日、賃金締切日の翌日に雇入れた場合は雇入れ日が起算日)
6-2. 支給対象期ごとの申請は漏れなく
本助成金の特徴として、以下の点に注意が必要です:
◆2〜6回に分けて支給される(対象者区分により回数が異なる)
◆各支給対象期(6か月)ごとに申請が必要
◆1回目の申請を逃しても、2回目以降の申請は可能 (ただし、申請期限を過ぎた期の助成金は支給されません)
◆毎回の申請で賃金支払状況等の確認書類が必要
6-3. 不支給となるケース
以下のような場合は助成金が支給されないため、特に注意が必要です:
①対象労働者の離職に関する事項
◆支給対象期の途中で事業主都合により離職した場合
◆第1期の初日から1か月以内に離職した場合
◆解雇・勧奨退職・事業縮小等による正当理由自己都合退職の場合
②雇入れ前の状況に関する事項
◆過去3年以内に同一事業所で雇用関係にあった者を雇い入れた場合
◆職場適応訓練を受けた者を、同じ事業所で雇い入れた場合
◆雇用予約後にハローワーク等の紹介を受けた場合
③労働条件に関する事項
◆支給対象期における賃金が支払期日までに支払われていない場合
◆時間外手当等の支払いが行われていない場合
◆紹介時点と異なる労働条件で雇入れ、労働者から申出があった場合
7. よくある質問(FAQ)
以下に、障害者雇用における特定求職者雇用開発助成金について、よくいただくご質問をまとめたいと思います。
トライアル雇用から継続雇用に切り替える場合、いつから助成対象になりますか?
トライアル雇用終了後、引き続き一般被保険者として雇用する場合、その時点から助成対象となります。ただし、以下の点に注意が必要です。
◆ハローワーク等に継続雇用する旨の報告が必要
◆トライアル雇用助成金とは別に、新たに申請手続きが必要
支給対象期の途中で労働時間や賃金を変更した場合はどうなりますか?
A: 契約内容の変更は可能ですが、以下の点に注意が必要です:
◆所定労働時間が20時間未満となる場合は支給対象外
◆著しく実労働時間が短い場合は支給額が減額される場合あり
◆賃金低下を伴う労働条件の変更は、支給対象外となる可能性あり
対象労働者が65歳に達した場合はどうなりますか?
A: 以下のように取り扱われます:
◆雇入れ時点で65歳未満であれば助成対象
◆支給対象期間中に65歳に達しても、その期間は助成対象
◆65歳以降も継続雇用することが支給要件の一つ
他の助成金と併用することはできますか?
A: 原則として、同一の雇入れに対して複数の助成金を受給することはできません。以下の確認が重要です。
◆現在受給中の助成金の支給要件を確認
◆検討している助成金の併給禁止規定を確認
◆不明な場合は、必ずハローワークに相談
助成金の支給額の変更や支給申請期限の延長は可能ですか?
A: 以下の点が原則となります:
◆支給額は定められた金額で変更不可
◆申請期限の延長は原則として認められない
◆申請期限内に必要書類を揃えることが重要
対象労働者の雇用を継続する期間は?
A: 以下の期間の継続雇用が必要です:
◆対象者が65歳に達するまで
◆かつ、2年以上(重度障害者等の場合は3年以上)
◆有期雇用契約の場合でも、更新により上記期間の継続雇用が確実であることが必要
◆申請前に要件を十分確認しましょう。
◆不明点はハローワークに早めに相談しましょう。
◆関係書類は支給決定後5年間の保管が必要です。
◆労働条件変更時は事前相談を推奨します。
本助成金は、障害者雇用促進のための重要な支援制度です。適切な運用のため、要件やルールを十分理解し、計画的な申請を心がけましょう。
8. 特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)のまとめ
最後に、これまでの情報のまとめを記載したいと思います。
8-1. 特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)のポイント整理
本助成金を活用するにあたり、重要なポイントを以下にまとめます:
①基本的な仕組みについて
◆就職困難者の継続雇用を支援する制度
◆対象者の区分により最大3年間の助成
◆中小企業は高い助成率で支援
②申請のための3つの重要事項
①雇入れ前の確認事項
◆必ずハローワーク等の紹介を受けること
◆過去3年以内の雇用関係がないこと
◆雇用保険の一般被保険者として雇用すること
②雇入れ後の実務ポイント
◆支給対象期ごとの申請(2〜6回)
◆各期2か月以内の申請期限
◆賃金支払い状況を証明する書類の保管
③継続雇用の要件
◆65歳までの雇用が前提
◆最低2年以上の継続雇用(重度障害者等は3年以上)
◆労働条件の不利益変更は避ける8-2. 制度活用のための確認リスト
8-2. 制度活用のための確認リスト
8-3. 相談窓口の案内
【お問い合わせ先】
①最寄りのハローワーク
◆制度の詳細説明
◆対象者の確認
◆申請手続きの相談
②都道府県労働局(職業安定部)
◆支給要件の詳細確認
◆個別ケースの相談
◆不支給事例の確認
【相談時の準備事項】
◆事業所の概要(従業員数、業種等)
◆雇用予定者の情報
◆具体的な雇用条件
◆過去の助成金受給実績
◆不明点や懸念事項のメモ
8-4. 最後に
本助成金は、就職困難者の方々の雇用促進と、企業の人材確保を支援する重要な制度です。
以下の点に留意して、効果的に活用していただければと思います。
✔ 計画的な活用
◆採用計画と連動した制度活用
◆長期的な人材育成視点での検討
◆社内の受入れ体制の整備
✔ 適切な運用
◆関係書類の確実な管理
◆申請期限の遵守
◆継続雇用の実現
✔ 情報収集
◆制度変更の確認
◆他の助成金との組み合わせ検討
◆好事例の収集
本制度を活用することで、中小企業の障害者雇用に大きく役立ちます。
不明な点がございましたら、必ずハローワークや労働局にご相談ください。
また、助成金の支給要件や手続きは変更される可能性がありますので、最新情報の確認を忘れないようにしましょう。
企業の成長と、障害者雇用の方々の活躍の場を広げるため、本制度を積極的にご活用いただくことを願っております。