近年、障害者雇用における新たな可能性として「テレワーク」が注目を集めています。
しかし、少なくない中小企業が「障害のある方のテレワーク導入には不安がある」と感じているのではないでしょうか。
そんな企業の背中を押すための支援制度として、障害者トライアル雇用制度が拡充されました。
本記事では、以下のポイントを中心に、中小企業の担当者の皆様にもわかりやすく解説します。
■テレワーク導入時の試行期間延長(最大6ヶ月)
■支給額と申請手続きの詳細
■制度活用における実践的なアドバイス
■継続雇用に向けたポイント
障害者雇用者へのテレワーク導入が注目される背景
コロナ禍以降の働き方改革と障害者雇用
新型コロナウイルスの影響により、企業の働き方は大きく変化しました。特に注目すべき変化として、以下が挙げられます。
▼テレワークがもたらした変化
・通勤が困難だった方々への就労機会の創出
・地理的制約のない採用活動の実現
・多様な働き方の選択肢の拡大
厚生労働省の調査によると、障害者雇用においてテレワークを導入する企業は年々増加傾向にあり、特に2020年以降は急速に普及が進んでいます。
障害者テレワークのメリットと課題
テレワーク導入により、企業と障害者の双方にメリットがあります。
メリット | |
▼障害者 | ・通勤による身体的・精神的負担の軽減 ・自宅での柔軟な働き方の実現 ・体調管理がしやすい環境での就労 |
▼企業側 | ・優秀な人材の確保 ・オフィスコストの削減 ・多様な働き方の実現による生産性向上 |
一方で、以下のような課題にも注意が必要です:
・オンラインでのコミュニケーション方法の確立
・業務進捗の管理方法
・適切な就労環境の整備
中小企業におけるテレワーク導入ニーズの高まり
中小企業でも、次のような業務でテレワーク導入の成功事例が増えています。
▼テレワークと相性の良い職種例
・データ入力などの事務作業
・プログラミング
・システム開発
・Web制作
・デザイン業務
・コールセンター業務
・経理事務
・・・etc.
トライアル雇用制度とは?基本のおさらい
制度の目的と概要
トライアル雇用制度は、以下を実現するための支援制度です:
▼制度の主な目的
・企業による障害者雇用のリスク軽減
・障害者の就職機会の拡大
・継続雇用に向けたミスマッチの防止
・早期就職の実現
対象となる事業主と障害者
▼対象となる事業主の条件
・雇用保険の適用事業主であること
・障害者を新たに雇い入れること
・ハローワーク等の紹介により雇い入れること
▼対象となる障害者の条件
・身体障害者、知的障害者、精神障害者
・ハローワーク等に求職登録している方
・週20時間以上の労働が可能な方
通常の支給額と期間
支給額と期間は、障害種別により以下のように定められています。
身体障害者・知的障害者の場合
支給額
⇒月額最大4万円 ・支給期間:最大3ヶ月間
精神障害者の場合
・最初の3ヶ月:
⇒月額最大8万円
・次の3ヶ月:
⇒月額最大4万円 ・最大12ヶ月までの延長が可能
テレワーク推進に向けた制度拡充の詳細試行雇用期間の延長(3か月→最大6か月)
障害者雇用におけるテレワーク導入をより円滑に進めるため、2024年現在、トライアル雇用期間の大幅な拡充が実施されています。
従来の3か月間では、テレワーク環境への適応や業務習熟度の見極めが難しいという企業からの声を受け、最大6か月までの期間延長が可能となりました。
▼期間延長のポイント
・通常の3か月から最大6か月まで延長可能
・テレワークによる勤務が対象
・精神障害者は従来通り最大12か月
ただし、注意点として支給額は延長期間中も変更はなく、最初の3か月分のみが支給対象となります。
この制度改正により、企業は十分な評価期間を確保しながら、継続雇用への移行を検討することができます。
テレワークの定義と適用条件
本制度における「テレワークによる勤務」は、明確な基準が設けられています。
具体的には、週の所定労働時間の2分の1以上をテレワークで実施することが求められます。
これは、十分なテレワーク環境での就労経験を積むことで、継続雇用後の安定した就労を実現するための基準となっています。
テレワーク実施の形態としては、在宅勤務またはサテライトオフィスでの勤務が認められており、情報通信技術を活用した働き方であることが前提となります。
この定義により、単なる在宅作業ではなく、企業の業務システムとしっかりと連携した就労形態の確立が期待されています。
精神障害者に関する特例
精神障害者の雇用については、その特性を考慮した特別な配慮がなされています。
最大12か月までのトライアル期間が設定され、最初の3か月は月額最大8万円という手厚い支給額が定められています。
特筆すべき点として、精神障害者の場合は今回のテレワーク関連の制度拡充による期間延長の対象外となっています。
これは、すでに最大12か月という十分な期間が設定されているためです。
この期間中、企業は段階的な業務の導入や、きめ細かな体調管理を行うことができます。
支給額と申請の具体的な流れ
身体障害者・知的障害者の場合
トライアル雇用における支給額は、身体障害者・知的障害者の場合、月額最大4万円が3か月を上限として支給されます。
これは、テレワークを導入し、6か月間のトライアル雇用を実施する場合でも変わりません。
支給額は雇用主の負担軽減を目的としており、初期の環境整備や研修にかかるコストの補助として活用できます。
必要な申請書類は以下の通りです:
・トライアル雇用実施計画書
・雇用契約書の写し
・障害者手帳の写し
・テレワーク実施状況の記録
精神障害者の場合
精神障害者の雇用については、よりきめ細かな支援体制が整えられています。
支給額は段階的に設定されており、最初の3か月は月額最大8万円、続く3か月は月額最大4万円が支給されます。
この手厚い支援により、企業は十分な準備期間を確保しながら、適切な職場環境の整備を進めることができます。
また、7か月目以降も一定の要件を満たせば雇用を継続することが可能です。
この際、以下の点に特に注意が必要です:
▼継続雇用時の重要ポイント
・主治医の意見書の確認
・職場内支援者の選定
・定期的な状況確認の実施
制度活用のポイントと実践的なアドバイス
テレワーク環境整備のチェックリスト
テレワークの成功には、事前の環境整備が不可欠です。
特に障害者雇用の場合、個々の特性に応じた配慮が必要となります。
まず、基本的なインフラ整備として、以下の項目を確認しましょう。
□ コミュニケーションツールの選定
□ セキュリティ対策の実施
□ 勤怠管理システムの導入⇒ しかし、環境整備は物理的な準備だけでは不十分です。
特に重要なのが人的サポート体制の構築です。
社内に支援担当者を配置し、日常的なサポート体制を整えることで、スムーズな業務遂行が可能となります。
トライアル期間中の評価ポイント
トライアル期間は、単なる試用期間ではなく、継続的な成長を支援する重要な機会です。
評価においては、以下の項目を総合的に見ていく必要があります。
・業務遂行能力:与えられた業務の質と量、期限遵守の状況
・コミュニケーション能力:オンラインでの報告、連絡、相談の適切さ
・テレワーク環境への適応度:在宅での業務管理能力
・健康管理の状況:適切な休憩取得、ストレス管理
これらの評価は、日報による進捗確認や定期的な面談を通じて行います。
特に、オンラインでのコミュニケーションにおいては、きめ細かな観察と丁寧なフィードバックが重要です。
継続雇用に向けた準備と注意点
トライアル期間の終盤には、継続雇用への移行を見据えた準備が必要となります。
この際、以下の項目について計画的な準備を進めることをお勧めします。
▼継続雇用に向けた準備事項
・評価基準の明確化と本人への提示
・正社員登用制度の整備(該当する場合)
・長期的なキャリアパスの提示
・必要なスキルアップ研修の計画
特に注意すべき点として、労働時間の管理とメンタルヘルスケアが挙げられます。
テレワークでは、働きすぎや孤立感を感じやすい傾向があるため、定期的な体調確認と適切な業務量の調整が重要です。
まとめ:障害者雇用者へのテレワーク導入成功のために
障害者雇用におけるテレワーク導入は、働き方改革の新たな可能性を広げる重要な選択肢となっています。
トライアル雇用制度の拡充により、企業は十分な準備期間を確保しながら、適切な評価と環境整備を行うことができるようになりました。
成功のカギとなるのは、以下の要素を計画的に実施することです:
・個々の特性に応じた環境整備
・定期的な状況確認と柔軟な調整
・継続的なコミュニケーションの維持
本制度を効果的に活用することで、障害者の方々にとっても企業にとっても、新たな可能性を開く職場づくりが実現できます。
より詳細な情報や個別の相談については、お近くのハローワークや労働局にご相談ください。
貴社の障害者雇用成功の成功を願っております。